柴崎友香の小説「春の庭」を読んだ感想
第151回(2014年上半期)芥川賞をとった柴崎友香さんの「春の庭」。
例によって自分のためのメモ的にいろんなことを書きなぐっていこうと思う。
まず情景を文字にするのがうまいなと思った。
読んでてすごく自然に絵が思い浮かぶ。すごい。
もちろん簡単な言葉だけ使って漢字も少なくして……みたいなやり方じゃない。文章が自然なんだと思う。(むしろ分かんない言葉とか漢字はかなり多かった。暗渠とか舅とかままかりとか辻とかどてらとか)
一応分からない人用解説メモ。
ままかり:サッパというニシンっぽい魚の別名。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%83%91
暗渠(あんきょ):水路っぽいやつ。言葉じゃ相当限界あるから気になる人は画像検索。
舅(しゅうと):夫or妻の父。姑じゃなくて男の方のやつね。
辻(つじ):十字路のちょうど交わる真ん中ところ。
どてら:なんかちゃんちゃんこみたいなやつ。ここらへんも画像検(ry
こんな感じでけっこう難しい言葉もあるわりに読みやすさだけで言えば、今年読んだ小説の中ではダントツNo.1。
西のキャラが強烈だな、と思った。最近小説に出てくる強烈なキャラは現実味がないけど、リアルに想像できる点で西のキャラは強烈。
そういえば主人公は客観的な語りが多くなる役割だからかどの本でも(この本も含む)冷静で淡々としている性格ばっかりだな。それぞれ味はあるけど。
特に牛島タローは、どの写真も、表情豊かに見える表情で、無造作に見える髪型で、普段着に見える白いシャツを着て、何気なく振り向いたように見える角度で、写っていた。こういう、常に自分の姿がどう見えるかを第一に考えているような男は好きではない。
引用元:柴崎友香著 春の庭 63pより
「だって、ずっと家の観察してたなんて言われたら、怖くないですか?」
「普通に、写真集のことだけ言えばいいじゃないですか」
「あ、そっか」
西は首をかしげて笑い、そのわざとらしいそぶりに、太郎は少し苛ついてしまった。やっぱり仲良くしているふりをして森尾さんを利用しているだけなのかもしれない。
引用元:柴崎友香著 春の庭 89pより
個人的にはこういうわざとらしさが嫌いなってけっこう多い気はする。こういう分かりにくいところって、実際言っても咎めきれないから「口に出さない、けど思ってはいる」みたいな状況がほとんどだろうし。
「独り身で、頼る親戚もいないから、生きている間にこの家を片付けておかないとね。あとに誰もいないから、できるだけのことはやっておかないと。立つ鳥跡を濁さず、というじゃないですか」
太郎の頭の中で、ずるいなー、と声が聞こえた。自分の声だったが、当然口には出さなかったし、それがどういう意味なのか、自分でもまだ理解していなかった。
引用元:柴崎友香著 春の庭 116pより
この「ずるいなー」っていう言葉の意味は、後の人や他の人のことを考えずに自分のことだけで完結させるっていうのがずるいっていうことなんだろうか……。
あと語りの視点がいきなり変わるのがおもしろい。最後の方とかはもう改行とかなしで文の途中からいきなり語りの視点が変わる。第三者的視点と主観が入り交じる感じ。こういう書き方は初めてみた。けど分かりにくくはない。新しいかも。
あとずっと標準語だった主人公がいかにも自然に大阪弁を話すのは切り替えうまいなー。たしかに地元の友達とか家族と話すときって急に訛でるよなぁ。
疑問点、というかどうしても気になる点がある。(マンションの十二支部屋番の内の最初の4つはどこへいったのかはとりあえずまぁいいとして)
最後の撮影のシーンで登場した女優はいったい誰なのか?
こういう疑問を残したまま宙ぶらりんでいることが肝だったとしてもちょっとこれは気になりすぎる。誰か知ってたら教えて
んー……西が一番有力な気はするけど。
この本の情報だけでは(少なくてもぼくは)その正体がはっきりと推理できないので、ここらへんがもやっとしてしまう人は多そう。
芥川賞受賞作品はもうけっこう読んだので、次は直木賞受賞作品でも読もうかなぁ。