ぼくらの研究

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中脇初枝「世界の果てのこどもたち」を読んだ感想

   

中脇初枝 世界の果ての子どもたち

読みました。

2016年本屋大賞で3位受賞を果たした中脇初枝さんの「世界の果てのこどもたち」を。(ちなみに大賞1位は宮下奈都さんの「羊と鋼の森」、2位は住野よるさんの「君の膵臓をたべたい」)

これまで中脇初枝さんの本は読んでたことがなかったので、今回が初めて。

 

この物語は主人公である3人の少女(珠子、美子、茉莉)の視点が入れ替わり立ち替わりながら進んでいきます。

最近軽めの小説ばかり読んでたせいか、もう出だしから本格派……というかスローテンポさに慣れず正直読み進めるのが根気が必要でした。

ただこの本はするめです。つまり尻上がりです。

最初は「んー…これ面白くないかも」と思ってましたが物語が進むにつれその気持ちは薄れ、評価がどんどん上がっていくはず

まず、恵まれた環境で育っている女の子の自意識をうまく描いてるなぁと思いました。 それと対比される形で貧しい環境で育った女の子の姿も映えます。

空襲のところとかは最初「描写があっさりしてて微妙だなぁここまでスローテンポだったのに、ここだけ言葉足らずな気がする、もうちょっとリアルに描けたんじゃ」みたいに思ってましたがその後の描写はとても生々しかった。さすがという感じ。

映画やドラマに限らず小説も最近の作品は序盤から劇的な展開が続くものが多く、それに慣れているためかこの手の起伏があまりない静かに淡々と進んでいく展開にあくびが出るような感じでしたが(失礼)、中盤から一気に引き込まれます。

大戦の中、信じられないほどの環境の変化がごく自然に起こる様が童話のように語られます。起こっていることは吐き気を催すほど残酷で生々しいんですが、視点がこの小説の主人公である3人の女の子に固定されているため、どこかおとぎ話のような印象に。すばら。

戦争、人種の問題、満州事変の物語、いろんなことをリアルに感じさせられます。

物語も後半になってくると、最初に描かれていた少女達の面影はもうぼやけて思い出すのも難しくなっていました。それほど劇的にそして自然に変化していったのです。

痛いほど現実的で悲しい物語。

でもこの本を通して中国人と朝鮮人と日本人の歴史的背景や文化をうまく……というかきちんと知れたような気がします。(教科書読んだり「パッチ○!」みたいな映画で見るよりもこっちのほうが分かりやすいし、実際に近いと思います)

今も絶えないアジア諸国のいざこざの根っこのところがこの物語を読むことでかなり見えやすくなったかもなぁとか思ったりもして。

あと本書で直接語られてはいませんが、間接的に当時と現代の価値観との違いも感じれたりもするかも。

普段読まない感じの本でしたけど意外と良かったです。