小説「スクラップ・アンド・ビルド」を読んだ感想
2016/09/02
芥川賞を受賞した本作のドラマ化が決定したらしい。
ということで今更ではあるが、原作小説の「スクラップ・アンド・ビルド」を読んでみた。
前置きストーリー上の具体的なネタバレは含まない。いわゆるネタバレ無し。
現代の二十代後半の人の悩み、家族の問題、介護の問題、尊厳死の問題、心と身体、恋愛、鍛錬と向上心と自意識。
ある一個人の人生のいろんなプロセスを丁寧にそしてリアルに描いている。
おそらく羽田さん本人にこういった経験があるのではないかと思う。少なくても断片的には。
でなければ書けない。
そう思えるくらいの現実味があった。
文体は中学校の国語の授業とかに出てくるようなあの感じなのに、予想以上にすらすら読めたのも新鮮だった。(ちなみにページ数は意外と少ない。120ページくらいだった)
丁寧なのに、まどろっこしくない。細かいのに、分かりやすい。具体的なのに、普遍的。
純文学には全然馴染みがないのだが、こういった文体にすることがその定義だということなのだろうか。
つまりこういったノリのことを純文学と呼ぶのだろうか。(そこへいくと西尾維新とかは対極に位置することになるな)
とにかく、今の純文学が大衆小説に寄っているのか、読み物としての完成度が高いのか、あるいはその両方なのか、はたまたぼくが旧時代的な感性を持っているのか、とても読みやすかった。
理想的な文だな、とすら思った。それでも今の時代にこの活字100%のものが受け入れられる気がしないのは悲しいところだが
最近のラノベも活字だらけなことに変わりはないのだが、あらゆる部分が口語調になっているので(実際の読みやすさは別として)パッと見の印象はかなり違う。
そんな理由もあって、ミステリー小説やエッセイ、絵本、漫画、哲学書まで読む雑食なぼくもこれまで純文学を手に取ってこなかった。
だがら実際読んでみて驚いた。このジャンルに対する見方が110度変わった。
純文学というのは、つまらないことが淡々と描かれているのだと思っていた。それは間違いだった。おもしろいことが淡々と描かれていたのだ。
1ページ1ページに詰め込まれている言葉が心を動かす。
文章はなめらかでスッと入ってくる。
物語として非常に完成度が高く、あまりある実感を伴って読める。
作者の思想や性格が隠せないほどの哲学が現れていて、ぼくらに最高の学びの機会を与えてくれる。
つまり、おもしろかった。とてもおもしろかった。
要するにハマった。とりあえず明日片っ端から芥川賞受賞作品を読んでみようと思うくらいに。(ちなみに芥川賞は純文学の新人賞的な位置づけらしい。よく対比される直木賞は大衆小説の賞らしい)
以前は正直良い印象を持っていなかった羽田さんのファンになった。これまでずっと見向きもしてこなかった純文学が今一番読みたいものになった。
やはり人生はスクラップ・アンド・ビルドが大事なのだ。