ぼくらの勉強

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吾輩は亀である。才能はまずない。

   

吾輩は亀である。才能はまずない。

なにが得意かとんと見当がつかぬ。何でも薄暗い地味なところで所でのそのそとやっていたことは記憶している。
吾輩はそこで兎というものを見た。

彼等は単に足を動かすのみならず、非常な速力で駆け抜けていった。
はじめに見たのはいつだったか忘れてしまったが、決して四足歩行の類ではない、もっと躍動していて、もっと美しいものだった。吾輩は彼等の才芸に嘆服して覚えず目を見開いたくらいである。

そこへいくと吾輩の動きはなんとも不格好なものだ。自分でも嫌気がさすほど鈍い。
周りでのそのそ歩いているものが、やいのろま、やい亀と貶されていたので、もしかすると吾輩もそうなかのかもしれない。
自分は兎ではないかと思ったこともあったが少なくても兎のなかには自分が兎であることを疑っている者は見当たらぬので望みは薄い。

聞いていた話では兎は怠惰だということだったがあれは嘘だ。実際に観察してみると勤勉なものが多いように見受けられる。機敏な上に休みもしないとなれば天地でもひっくりかえらねば追いつくことなどできないではないか。

なにか億劫になってしまってそれからしばらくはあまり外へ出なくなっていたのだが、ある時分引籠るのも辛くなって、久しぶりに野へと歩を運ばした。

やはり野は良い。こうして歩いていると気分がすっとする。
そうして青々とした野生を嗅ぎながら、背の短い草を押し分け進んでいると、目の前を大きな亀が横切った。
陸ガメである。亀中の大王ともいうべきほどの偉大なる体格を有している。しかしその巨大さにおよそ似つかわしくない速力で駆けていた。
吾輩は嘆賞の念と、好奇の心に前後を忘れて彼の前に佇立して余念もなく眺めていると、大王はぴたと停止する。振り向き、かっとその真円の眼を開いた。双眸の奥から射るごとき光を吾輩の矮小なる額の上にあつめて、おめえは一体何だといった。「吾輩は亀である」となるべく平気を装って冷然と答えた。

彼は軽く鼻を鳴らして「ふん亀か」と言ったかとおもうと向こうの山の方へ疾風の如く駆けていった。

みるみるうちに遠ざかる甲羅を見て、はてと思う。あれは亀だろうか。

吾輩は生まれてこのかたあそこまで激しく足を動かしたことはない。動かせるとは思っていなかった。

自分の青い足を見る。
そもそも全力で駆けたことがない者に自分が亀か兎かなど本当に分かるものだろうか。

はじめ亀だと思っていたものが向かった山を見る。
それはあの頂に着いてやっと分かるに違いない。未だ途上にある者はすべからく才の有無を持ち出す資格すらないのだ。

あぁそうだ。吾輩が亀なのか兎なのかなど考えている暇はない。心配する意味もない。

この道を力の限り進んでゆくことに変わりないのだから。

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